2020.11.04
第4章2身を捨ててこそ②
そんなこんなで身を捨てて手にしたこの施術だがこれまでの実績通り?施術に対するモチベーションが頭打ちの状態になってきた。勿論、悩みを抱えて来られるお客様に対しては懸命にやらせて頂いてはいたがほぼ全ての技術的な引き出しも身につけ、経験値からパターン化した理論により殆どの薄毛に対応可能になった段階で施術自体がある意味慣れ親しんだ一つの作業と化してしまう日が遠からず来るんだろうなという予感を感じるようになっていた。加えて自身の年齢、体力から起因する施術の負担も多少なりとも覚える時が増えてきていた。如何せん何時間も立ちっぱなしでの施術故に足腰に結構くるのだ。技術を覚えて帰国して約4年後の2015年夏の事だった。
当時の私の元には弟子なるスタッフが2名いた。元々は私の元に施術を受けに来たクライアント達だったが私同様この施術に魅せられ技術を習得したいと申し出てきたのだった。弟子希望者は彼ら以外にも何名かいたがその人物像で断ったり、弟子入りするも途中で挫折した人達もいて結局モノになったのはこの2名のみだった。それでもこの繊細で難度の高い技術を身につけられる素養と施術者になる為の意欲と良識を携えた者が2名いたのは幸いだったと言える。それぞれ呼称はのぶ (男性)とカノ(女性)だ。
のぶ
のぶは元々理容室を営んでおり私から施術を受けた直後の2013年から修行を開始したのだがハサミと違ってガンの扱い方に慣れていない当初はどうしても「針を刺す」意識から脱せず私に叱咤される事が頻繁にあった。が、基本的に努力家だったのとコツの伝授、経験値によって数年かけて一人前の施術者にまで成長した。加えて商売柄数多くの男性の頭を見てきているのでクライアントに合ったヘアーラインを具現化するのが上手い。しかしながら私が綺麗に仕上げた彼の頭は修行当初の自身の練習台となり大きなドットや滲んだドットで今や駄作と化している。参考までに上から施術前、施術後、自身の練習台で使用後だ。真ん中のアフターの時点では自然な色合いなのだがその下の2枚は明らかに色が濃くドットも大きく滲んだ物になってしまっている。修行時に結構夜な夜な鏡を見ながら打ってたらしい。また、私が以前記したオランダのメーカーのインクも試し打ちしたのが後頭部の青味がかった箇所だ。
自身が受けた施術のいい出来栄えの頭部をお客さんに見て頂くのも施術者の役目なのだがこれはこれで彼がこの施術をひと時でも早く身に付けたいとの思いから自身の頭を犠牲にして修行に臨んだ証で有ると思う。知り合ってからもうすぐ8年になるが私の弟子であり仲間でもあり弟分でもある。彼との巡り合わせに感謝。