2020.10.07
第3章2田中君の失踪
帰国後もHIS hair clinicとのフランチャイズ契約の件とかで田中君とは連絡を取り続けていた。仕事以外のたわいもない事もメールでやり取りしていたが特に変わった事は無かったように思えた。が、そのうち連絡が途絶えた。メールでも忙し過ぎてちょっとキツいという泣きの表現があったので私への返信まで手が回らないのかも知れないと思い、こちらからもそれ以上踏み込む事もせずそっとしておいた。1ヶ月半程経ってやっと田中君から来た連絡の内容に私は仰天した。イアンや他のスタッフの誰にも話す事なくいきなり夜逃げ同然でHIS hairを飛び出し、今はたまたま立ち寄ったフランスの牧場で住み込みで働いているという内容だった。その後のやり取りで分かった事だが仕事の拘束時間が長過ぎて過酷だった事、報酬に対する不満、そういった環境下でイアン含む経営者サイドとの関係悪化等々が理由だと言うことだった。しかしいきなり夜逃げって・・・。あの田中君がそのような直情的な行動に出たのにも些か驚いた。でも考えたら彼の全てを知っていた訳でも無いし元々そういう素地があったにも拘らず私が研修を無事終えるまではと彼なりに色々辛抱していてくれていたのかも知れない。去り方は褒められたものでは無いが出会いから1年、彼から受けた恩恵を考えれば「そうか、今まで色々本当にありがとう。これからも元気で楽しい人生が送れるよう祈ってる」としか言いようが無かった。正直なところショックは受けたが夜逃げした挙げ句フランスの牧場で住み込みで働いているなんてちょっと規格外すぎて思わず笑ってしまった。
HIS hairとの関係
田中君が辞めてHIS hairとのFC契約の締結の手続き、諸々の取り決め等々に支障が出るのは明らかだった。契約書の骨子はほぼ出来ていたが詰めねばならない項目も幾つか残っていた。£15,000の残金支払いに対してHIS hairのHPに日本支店のページを掲載するという事や売上に対するロイヤリティの請求管理の方法、針を含む機材のデリバリー方法などだ。また日本で法人を立ち上げるに当たり針の輸入とか鑑みて医療機関と提携する必要性も有り、その相手先の選定もなかなか思うように進められずにいた。加えてHIS hair イアン氏の方も元々直営店以外の店舗にはそう気乗りがしていない事は前述したが、テンポラリーで雇った日本のスタッフから連絡を入れても返事に時間を要するようになったりでここに至ってFC契約のタスクフォース、田中君が居なくなって全ての作業が停滞し始めた。
2010年9月の渡英でイアン達に提携の申し入れをし、以降HIS hairの傘下として共にビジネスをしていくべく精進して来たが実は研修の終わり頃からはHIS hairとのFC契約に今後の全て(つまり私自身の頭の今後のメンテや日本国内での展開)を委ねる事に一抹のリスクを感じてはいた。約束事に比較的厳格な日本人同士でフランチャイザーも国内であればそう心配する事も無いのだが相手が遠く離れたイギリスである。イアンも外人特有の適当さがたまに垣間見えたりする。田中君がいる間は双方の架け橋的な役割を担ってくれるだろうから問題は無いのだろうが田中君有りきの前提だと何かあった際には対応出来ない。FC契約をきちんと締結していたところで果たしてイアン、HIS hairサイドが直営店では無い外様の私にどこまで責任を果たしてくれるのかも半信半疑のところもあった。実際、田中君が居なくなって以降、業務連絡でさえスムーズに進まなくなっている現状を考えるとこのまま当初の目論見通りにFC契約を進める事にも私自身不安を感じていたと同時にHIS hair clinicの傘下から外れる道筋も意識し始めていた。別にHIS hairのフランチャイジーになる事が嫌だった訳では無いがそれなりの金額を払うからには約束事をきちんと履行してくれる相手先であるという事が大前提だ。
独自路線を模索
田中君の失踪がきっかけでそういう思いが芽生えつつあった中、①マシーンとガン②針③インク。これら3つの供給ルートを確保出来ればHIS hairとのFC契約が例え未達に終わっても独自路線でやっていけるのではと考えていた。研修から帰国する際にマシーンとガンは2セットずつ、針は90本、インクは数年分HIS hairから入手していたのでしばらくは問題無いが1番気掛かりだったのは使い捨てカートリッジタイプの針だ。箱に記載されているイギリスの会社に連絡してみるもディストリビューター(販売代理店)への卸し売りのみとの事だった。それからひたすらネットで検索の日々の中、オランダのとあるメーカーに辿り着いた。HPでは多種多様のマシーン、ガンが掲載されており、中にはHIS hairと同じタイプが。おまけに針も様々なタイプの中で同じタイプが有った。此処と取引き出来る様になれば独立的スタンスも視野に入れる事が可能になる。これはもう行くしか無いなと思い、即座にそのメーカーにコンタクトを取った。イギリスまで13時間近くのフライトを1年ちょっとの期間に4往復もして、ヨーロッパとか暫くこりごりだと思っていた矢先に今度はもっと時間のかかるオランダに行く羽目になった。